2012年7月9日月曜日

MATECOレポート 【十人素色-決定の論理 その7】


MATECOレポート第八弾は、『十人素色-決定の論理-』にご登壇頂いたアーティスト・流麻二果氏のレクチャーについて、です。 

初めて流さんの作品を拝見したのは約二年前のことでした。軽やかな、そして時に重みのあるストロークが描き出す美しい色彩は、私達がいつも目にしている人体のフォルムの一部でありながら、懐かしい景色や自然の風景のようにも見えます。

決定の論理を語って頂く10組のレクチャラーの選考にあたり、当初からアーティストの方には是非参加して頂きたい、と考えていました。無から有へ、というアートの創造のプロセスにおいて、色彩の果たす役割とは?そんな素朴な興味から、自由に色彩を使いこなされている(…と推測される)流さんに、是非お話を伺ってみたいと思いました。

ポートその1その2その3その4その5その6とも併せて、ご高覧頂ければ幸いです。


Vol.07 「作品の中では自身のその日の気分が色を決める」 流麻二果氏

美術家・流麻二果さん。彼女は今回のレクチャラーの中でも異色の存在と言えるでしょう。”感覚的に”決めていると捉えられる色彩や素材の選択。アートの領域はその傾向をより一層強く感じさせるものだと思います。その中に潜む論理とは何か—。

レクチャーでは、自身の中心的な活動であるペインティングを軸に、大きく分けて次の3つの場面での制作についてお話しいただきました。
 □ 美術館やギャラリーでの展覧会
 □ 建築とのコミッションワーク
 □ 東北の被災地を中心に行われているワークショップ
 
以下、簡単にですがレポートさせていただきます。
 
□ 展覧会
まずは国立新美術館とギャラリーPANTALOONでの展示についてお話しいただきました。
展覧会に向けて作品を創る時には事前に会場を見て、壁や天井の高さ、入口の位置といった場のボリュームから、光の入り方のようなものまでを捉えるそうです。さらに、人がそこにやって来て、作品を観るまでのストーリーを意識して色を決めるとのことでした。

美術館やギャラリーは、本来的に作品を飾るための場所です。しかし、単に作品がその場所に持ち込まれるのではなく、その場所に散らばる種々の要素が作品の特徴を指向させる論理に成り得ることが示されていました。

□ コミッションワーク
建築に作品を入れるコミッションワークとして、パークコート麻布十番、裏磐梯高原ホテルでの制作をご紹介いただきました。
麻布十番のプロジェクトではゲストルームの壁一面に飾る作品について、色彩の強さや作品自体の大きさが過大にならないよう、きわの色を壁に合わせ「色と空間を伸ばす」ように制作されたそうです。

裏磐梯ではホテル周辺にある五色沼をモチーフとして、5つの色を展開した客室のアートワークを制作されました。黄・緑・赤・青・瑠璃のそれぞれのテーマにならい、家具等のしつらえに合わせた色彩が選択されていました。
こういったコミッションワークが展覧会と大きく異なるのは、訪れる人の主目的が作品の鑑賞ではないことにあるかと思います。それでも基本的な論理は共通しているように感じられ、飾る場所の特性や人の感覚を察知し、そこに作品が在る状態について思考されていました。

□ ワークショップ
作品制作とは別に活動している「一時画伯」についてもお話しいただきました。この団体は、アートに触れる事の少ない人々、特にこれからを生きていく子供たちに対して、アートを開かれたものにする目的で活動されています。

今回は、宮城大学竹内研究室が東北の被災地で行っている「番屋プロジェクト」についてご紹介いただきました。流さんらは建てられた番屋の柱に子供たちのオーダーの下で混色された色をつけていくワークショップを行っているそうです。

レクチャーの中で被災地について語られた「色が無くなったことを感じる」という言葉がとても印象的でした。子供たちの自由な発想によって塗り替えられていく無の風景。これからを担う無限の想像力こそが、思いもよらない事態を越えていく手掛かりになるのかもしれません。

さて、レクチャーの冒頭、流さんは次のように仰っていました。
  
「作品の中での色彩の決定というのは、一言でいってしまうと自分のその時の気分でしかありません。」
  
まさに感覚的な判断であるように聞こえますが、今回のレクチャーではその気分そのものを作り出す道筋が語られていたように思います。与えられた様々な場に対して、そこにある要素を選び取り、形にしていく様は非常に論理立ったプロセスであるように感じられます。

そして、それはご自身のHPにて示された創作の動機である「見ず知らずの他人への興味」が形を持った作品として表れる過程を示すものに他ならないのだと思います。


●レクチャラー紹介
流麻二果 / MINIKA NAGARE 
1975年生まれ、女子美術大学芸術学部絵画科洋画専攻卒。2002年 文化庁新進芸術家在外研修員(NY滞在)、2004年ポーラ美術振興財団在外研修員(NY・トルコ滞在)
有機的な気配を残した抽象絵画を中心に、紙や布を使ったインスタレーション等も手がけ、国内外の美術館、ギャラリーで発表している。
2011年に非営利団体・一時画伯(いちじがはく)を発足。アーティストが、美術に触れることの少ない子供たちに「アート」を届ける活動を目的とし、当面のプログラムとして東北でのワークショップを継続している。 

●レポート執筆担当
志田悠歩 / YUHO SHIDA
1985年東京都生まれ。
2010年芝浦工業大学大学院建設工学専攻(土木構造研究)卒業。
同年4月パシフィックコンサルタンツ株式会社入社。現在、交通基盤事業本部鉄道部・橋梁構造室にて鉄道橋梁設計、鉄道計画に従事。また2010年よりGSDyに所属。同団体では主に橋梁に関わる企画・勉強会に携わっている。

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